愛しい闇
3
どうしてかは分からない、本来なら決して恋愛対象にはならない相手。
おそらくは他の男にも抱かれているだろう、そんなことは簡単に予想がついていた。
愛してるのに。
軽く言ってはいるけど、ずっと本気だった。
真っ当な学生として道を歩み、真っ当な数学教師としての道を歩んできた。
今だって仕事はまじめにやってるし、生徒たちにもほどほどに好かれた、悪くない先生をやっている。
ただ道を外しているとみなされるだろうことは、恋人だ。
いや、向こうは自分を恋人などと露ほども思っていないだろう。
都合のいい時のセックスの相手。それだけだ。
しかも生徒、さらに同性。
禁断と呼ぶべき2つの壁、だけどそんなものをそんなものと云えるほどに。
彼は恋人に夢中だった。
それなのに。
一方的な恋人は、公式に自分じゃない人間を恋人に選んでしまった。
いつかそうなるだろうと、最悪のパターンとしては予想していた。
それが思った以上に早かったのだ。
そのことが予想以上に彼に衝撃をもたらしていた。
こうやってほとんどなりふり構わない状態で
「恋人」…猿野のもとに来てしまうくらいには。
「……何。」
「…聞きたいこと、あるんだけど…。」
猿野の声は、相変わらず取り付くしまもないほどに冷えていた。
それでも、聞きたかったのだ。
おそらくは否定の言葉を。
「……付き合ってるって?」
「ああ…何だ、もう聞いたのか。
早いじゃん。 そうだよ。」
「…っ。」
あまりにもあっさりと、肯定の言葉が返された。
別に付き合っているという男より自分の事が好きとか言ってほしかったわけじゃない。
ただ、その男も自分と同じような…と…。
「あんたが何考えてるか知らないけど。
別に相手が特別とか甘ったるいこと云うつもりはないぜ。
もちろんあんたもな。」
「え。」
遅れたタイミングで言われた言葉に、少し驚く。
自分が求めていた言葉だった。
彼の言葉に安堵するなど、初めてだったが。
確かに自分はほっとしていると、嬉しく思い、そしてむなしくも思った。
「…そ、か…。」
「……安心してんの。くっだんねー。」
「……だよな…。」
ばっさりと切り捨ててくる彼に、苦笑は禁じえなかった。
「でもさ、俺もそんだけ猿野に本気だってことよ?
いい加減信じて欲しいもんだけどな。」
だからせめて、いつも通り冗談のように。
本気で、言った。
すると猿野はいつもと少し違う表情で、いつもと同じ事を言った。
「ほんっと、趣味悪ぃ…。」
「…さるの…?」
「猿野くん!」
突然、別の声が響いてきた。
よく通る美声とともに現れたのは、この学校で最も有名といっていい生徒だ。
(…こいつかよ…。)
「ああ、ここにいたんだね。
…先生、彼に何か用事だったんですか?」
「……いや…。」
猿野の冷たい視線を感じながら、さし障りのない答えを返す。
「この間のプリントの出来があまり悪いもんでな、ちょっと説教くらわしてたんだ。
もういいぞ、猿野。今度はちゃんとまともな答案返してこい。」
「はーい。明美のラブレターでよ、け、れ、ばv」
「いるかんなもん。」
表向きの明るくふざけた猿野の顔で、若干以上残酷な返事を返してくれた。
いい年して泣きそうな顔を牛尾に見られていないか、少し心配ではあったが。
おそらく牛尾も複雑な表情をしてるように思った。
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「あははっ助かりましたよキャプテン!
いやーあの先生見かけによらずしつこくってー。」
「そう?猿野くん。僕でよければ教える…けど?」
「え?そう…ですね、また今度…あんまりキャプテンに迷惑かけられないし…。」
「そんなこと…いいんだよ。
だって…その、僕たち…ね?」
「あ…。」
ああ、そうだな。
「そう、ですね…。じゃあ、お言葉に甘えて…。」
「ああ、今日でもいいよ。練習が終わった後…よかったら…。」
「泊っていく?」
この人も
「いいんですか?じゃあ、よろしくお願いします!!」
To be Continued…
何年ぶりかにこちらの裏作品、続きを書かせていただきました。
まだ天国の過去も何も知らない時期に前作書いたんで…だいぶ内容変わるかもしれませんが…。
ちゃんと続かせ、終わらせたいと思います。
朽龍さま、本当に申し訳ありません!!
もし読んでくださることがあれば謝罪とともに改めて捧げさせていただきます!
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